値段だけじゃない、インプラントと入れ歯・差し歯の違い


欠損した歯を補充する方法として、差し歯・入れ歯・インプラント・ブリッジという4つの治療法があります。ブリッジは、歯欠損している部分の両側の歯を削り、3本まとめて被せ物で覆う治療。まあ早い話、隙間隠しのような治療方法で、義歯を入れるものではありません。

という事で、実際に義歯を使用する歯科治療は、インプラント・入れ歯・差し歯の3つです。そのせいか、よく、インプラントは入れ歯の一種だと思っておられる方がいらっしゃいますが、それは大きな誤解です。だったら、インプラントは差し歯なのかと言うと、それも違います。ただ、どちらかと言うと、入れ歯よりは差し歯に近い構造だと言えるでしょう。

そもそもインプラントというのは、入れ歯のような義歯ではなく、歯茎の中に埋め込む歯根を意味します。インプラント治療とは、チタン製の人工歯根を顎の骨に埋没する手術です。その後、そこに人工歯冠を装着し、義歯の完成となります。根っこから歯先まで、全てが人工歯です。

一方、差し歯は既存の歯根に人工歯冠をはめ込むもの。半分が天然、半分が人工の歯となります。いずれにせよ、歯根を持つしっかりした歯で有ると言えるでしょう。それに対し、入れ歯は歯冠の部分だけを作り、既存の歯にバネで装着するもの。100%人工の歯で且つ、歯根を持たない義歯です。当然、強度は劣ります。

という事で、一番いいのは言うまでもなく、歯根から歯先まで全てが天然の歯、すなわち100%自前の歯ですが、次にいいのは半分天然の差し歯という事になりそうです。

ただ、歯周病などで歯が抜け落ちてしまったり、抜歯せざるを得なくなった場合には、歯根も一緒に喪失してしまいます。すると、差し歯の使用権利も失ってしまいますから、選択肢は2つ、入れ歯かインプラントかとなる訳です。

このインプラントvs入れ歯という対決は、歯根を持つ歯vs歯根を持たない歯という事で、一見、歯根を持つインプラントの圧勝のように見えます。しかしながら、インプラントにはインプラントならではのリスクやデメリットがあり、思いのほか難しい選択です。

まず何より、治療費の差は歴然。何しろ、入れ歯は保険が使えます。素材にはこだわらない、とにかく不足している歯を補うだけで十分というのであれば、1本数千円でまかなう事も可能でしょう。

さらに、同じ自費治療でも、歯冠の部分だけを作る入れ歯と、歯根から作るインプラントとではお値段的に大違い。当たり前ですが、根から先端まで作るインプラントの方が高価になります。加えて、治療そのものも入れ歯の方が断然簡単で、歯や骨を削るような外科的手術は殆ど必要ありません。短期間に歯冠の装着に至ります。

ところが、歯根を骨に埋没させるインプラント治療は、高度な技術を必要とする口腔外科的手術となり、歯冠が装着されるまでに数ヶ月もかかるのです。という事で、インプラントは間違いなく、肉体的負担も、経済的負担も大きな歯科治療になります。

けれど、だからと言って、入れ歯でも肉体的負担や経済的負担が軽いのかと言うと、必ずしもそうとは言い切れません。そこで、今回は入れ歯とインプラント、それぞれのメリット・デメリットを比較検討してみましょう。

値段だけじゃない、治療方法から見るインプラントと入れ歯の違い


インプラントと入れ歯では、その治療の内容が大きく異なります。さらに、治療後のアフターケアも異なるため、一概に値段だけで決める訳には行きません。

確かに、高価でも歯根を持つインプラントの歯は丈夫で、第二の永久歯と称されるほど。まるで自分の歯のように自由自在に物を咬む事が出来ると言われています。しかも、骨に人工歯根を埋込、そこに義歯を装着する訳ですから、周囲の歯に頼る必要なし。隣近所の既存の歯を傷める心配がないという大きなメリットも持っています。

それに対し、歯根を持たない入れ歯の咬む力は、天然の歯の半分以下。堅い物は殆ど咬めないと言って過言ではないでしょう。さらに、部分入れ歯は最寄りの天然歯に「クラスプ」というバネ式の留め金を使って装着するため、利用される歯はたまったものではありません。自然と余分な力がかかり、寿命を縮めてしまう可能性を秘めています。

また、総入れ歯は歯茎に被せるように装着する訳ですが、口の中を完全に義歯集団が支配するため、食べ物を美味しく食べるという点で支障を来しがちです。いずれにせよ、入れ歯は違和感が強く、なれるまでは楽しい食事や会話がおあずけになるでしょう。

ただ、歯や骨を削るような大がかりな手術を必要としない入れ歯治療は、たいていの歯医者さんで受ける事が出来ます。また、安全性が高く、全身疾患を持つ人や高齢者でも、比較的安心して受けられる歯科治療。治療期間も短く、保険適用の歯なら約2週間、自費診療の歯でも3ヶ月くらいあれば十分です。

それに対し、インプラントはメスで歯茎を切り開き、人工歯根を埋め込む部位の骨を削ります。本格的な外科手術で、それなりの設備と腕を持つ歯科医師のいる歯科医院や医療機関でなければ受けられません。また、一定量の麻酔や出血に耐えられるだけの体力が必須で、脳疾患や心疾患、あるいは、血圧が高めの人や糖尿病を持つ人には厳しい部分があります。

さらに、歯根を埋め込む部位には、健康な骨が十分なければならない訳です。もし、顎骨が不足している場合は、多の部位の骨を削って移植するか、人工骨で造成する必要があり、益々大がかりな手術となります。しかも、骨移植をした場合、それが周囲の天然骨に吸収され、治療部位の骨の一部となるまで待って、ようやくインプラント体の挿入。という事で、歯根を埋め込むまでに数ヶ月かかるのです。

ならば、骨移植がなければ短期間に治療が終わるのかというと、決してそうではありません。そもそもインプラント事態、チタンが持つ人の骨に溶け込むという性質を利用したもので、やはり骨の一部となるのを待って歯冠部分を装着する形になります。そのため、2ヶ月で新しい歯が入るなど、夢また夢です。

移植骨が我が身となるまでに約半年、そこに埋め込んだ人工歯根が我が身となるまでに約3ヶ月ということで、義歯が装着されるまでに1年近くかかる事も珍しくありません。その分、時間と費用がかかるという訳です。

気になるインプラントのお値段、その治療費の内訳はどうなってるの?


上記の通り、なかなかの時間と手間の掛かるインプラント治療。ならば、お金はどのくらいかかるのか?恐らく皆さん、ここが最も気になる点だろうと思われます。しかも、歯科のホームページを見ても、案外その明細は載っていません。30万から50万というように、かなり大雑把です。

まあもっとも、治療する部位や本数、そして何より、個々の口腔内の状態によって必要な措置が違って来ますから、一概にいくらとは言えないのが現実でしょう。だからこそ、多くの医院は、先のような表記にしている訳です。とは言え、やっぱりその内訳が気になるという事で調べてみました。

元々インプラントの治療費は、施術費用と技工費用の2つから構成されています。前者は診察と検査、そして施術費用という事で、歯科医院に入るお金。後者はインプラント体である人工歯根とそこに取り付ける義歯など、歯科技工物の材料費と制作費で、医療機器を作っているメーカーに入るお金です。

そして、インプラント治療の平均費用内訳は下記のようになります。

  • 初診料:2,000円~6,000円
  • 検査料:15,000円~50,000円
  • 歯科技工費用:100,000円~150,000円
  • 手術費用:100,000円~380,000円
  • 通院時の診察料(1回):1,000円~10,000円
  • 治療後の定期検診料(1回):5,000円~10,000円

  • 上記の価格は、年間にある程度のインプラント治療の症例を持ち、且つ、内訳をはっきり示している首都圏の歯科で、比較的安いと思われるところの平均と、比較的高いと思われるところの平均をまとめたものです。この結果から試算すると、安いところなら22万3,000円、高いところで60万6,000円という事になります。ただし、税込みとなるか、税抜きとなるかは不明。恐らく、院によって異なりそうです。

    ですが、前述の通り、インプラントで義歯が装着されるまでには、最低でも3ヶ月以上、長くなると1年近くかかります。その間、骨や人工歯根の吸収状態をチェックするためだけに来院したという日も出て来るでしょう。上記の通院時の診察料というのは、それに該当するもので、先の計算は、あくまでも1回こっきりで次のステップに進めた時の金額です。

    さらに、義歯が装着されたからと言って、それで完了という訳ではありません。その後もずっと治療部位の状態と噛み合わせを経過観察する必要があります。それが治療後の定期券診療。これもやはり先の計算は1回こっきりで終わったらという話です。

    しかし、現実は、ほぼ3ヶ月に一度のペースで最低でも1年間通院しなければならないため、その分を加算すると、どんなに安価なところでも25万円以上はかかるものと思われます。高いところになれば70万を超えそうです。加えて、先のような骨造成が伴うと、治療費用は大きく違って来ます。その施術費用や人工骨の材料費が加算され、20万円から40万円増となります。

    とは言え、少なくとも基本的な検査と手術、それに術後1年目までのアフターケアまではセット価格として料金設定しているクリニックも少なくありません。特に歯科治療費専用の「デンタルローン」を取り扱っている信販会社やローン会社の提携医院などはほぼ100%、このスタイルです。

    むしろ、先のような内訳を細かく出している医療機関は僅かで、たとえ出していても、セット価格が用意されているものと見られます。それに骨造成などの特殊な施術を伴う場合には、必要に応じた費用を加算するという形です。

    ただ、そうなると、施術費用と歯技工費用の内訳が明確にされないまま、30万から50万という数字だけが料金表に書かれる事になります。これが高いのか安いのかが分からず、戸惑っておられる方は少なくないでしょう。

    けれど、こうしたセット価格を設定している歯科では、通院回数やアフターケアの回数が増えても追加徴収しないというスタンスを取っているところが大半です。加えて、カウンセリングや歯科相談という形で初診料をサービスしているところも多数あります。つまり、詳細な料金表示がない事自体には、さほどこだわる必要性はないのです。

    歯科医院によるインプラント治療の値段の差をどう判断する?


    ネットなどで医療機関のインプラントの値段を見る場合、詳細な料金が明示されていないために、様々な不安や疑問を持たれる方は少なくないだろうと思われます。

    しかし、現実問題として、あまりにも個人差が大きいため、明確な価格を設定出来ないのが歯科治療費です。そこで一先ず、大まかな料金表を提示している歯科医院やクリニックは信用していいでしょう。ただ、極端に安価な場合は、十分吟味する必要はありそうです。

    というのも、上記の内訳を見ると分かる通り、歯技工物の費用そのものは大差がありません。最も差の大きいのが手術費用。また、検査費用や検診費用の差もかなりあります。これらは全て、歯科医の技術と院の設備にかかる費用です。ゆえに、言い値とも言える金額で、技量や姿勢を判断する目安となります。

    先にも書いたように、インプラントは口腔外科の領域に入る高度な歯科治療です。難易度が非常に高く、虫歯治療のように、歯医者の先生なら誰でも出来るというものではありません。奥歯は元々外科的手術が難しいですし、前歯は審美治療も考慮しなければならないでしょう。

    しかも、日本の大学の歯科でインプラント技術がカリキュラムに組み込まれるようになったのは、ごく最近の事。殆どの現役歯科医は、メーカーなどが実施する研修や講習を受け、独学で腕を磨いています。そこで、医師一人一人の努力の差が技量の差となり、治療費の差となって現れて来るのはしかたのない事だと言えそうです。

    また、体にメスを入れる訳ですから、十分な検査をして、まずは治療そのものが可能かどうか。どのようなリスクがあるかを正確に把握する必要があります。そこで、先進の機器を使った精密検査が必須となり、設備投資が不十分なところで受けるのは非常に危険な医療です。厚生労働省も、インプラント治療における事前検査の重要性を広くアピールしています。

    さらに、歯科技工物においても、全てが似たようなものという訳ではありません。事実、日本ではインプラント治療が承認された直後、アメリカのように急激な普及を見せるかと思いきや、相次ぐトラブルと扱いにくさに、多くの歯科医が敬遠。インプラントなんてするものじゃないと噂されたくらいです。

    それもそのはず、なんと、本場アメリカの人工歯根がチタンなのにも拘わらず、国産の人工歯根はセラミック製だったのです。これでは、骨に吸収されるという性質を生かし切れませんから、不具合が発生するのが目に見えています。

    今では、国内でもチタン以外のインプラント体は製造されていませんが、日本はアメリカに比べ、間違いなくインプラント後進国です。そのため、国産のインプラント体はいわゆるジェネリックで、輸入費用もかかりませんから、安価ですが、まだまだ技術の面で劣る部分は否めません。逆に言えば、手術料ほど大差がないのであれば、海外の老舗メーカーの技工物を用いる歯科医師の方が利口だと言えるでしょう。

    加えてもう一つ、昨今は最初に安価な見積もりを出しておきながら、後でなんだかんだと検査や治療を付け足し、追加料金を徴収する歯科医院もあると言いますから要注意です。必ず、それがセット価格なら、何があっても追加料金が発生しない事。どうしても発生する場合は、どのような時に、いくらくらいの費用が発生するのかを確認しておく事が大切です。

    インプラントは本当に入れ歯より値段が安いの?


    その治療の性質から、入れ歯は殆どの歯科医が可能な治療であり、殆どの患者に適用出来る治療法でもあります。実際問題として、入れ歯は問題なく出来ても、インプラントは難しいとか、出来ないという先生もいれば、患者さんもいる訳です。それを考えた時、インプラントを選択出来るのであれば、インプラントを選択する方が断然お得のような気はします。

    事実、アメリカではインプラントは欠損した歯を補う最もオーソドックスな方法。特にセレブなアメリカ人は、入れ歯よりインプラントというのが常識だと言います。特に健康保険制度の充実していない国では、何をやっても自費診療なのですから、同じ大金をかけるのならという考え方もあるのでしょう。

    ただ、日本には健康保険や医療費控除など、様々な医療費の支援制度があります。それらをどうしてもフル活用したいのであれば、やはり入れ歯を選択せざるを得ません。なぜなら、インプラントは完全に保険適用外だからです。

    ただし、保険で作れる入れ歯は材料が限られていて、奥歯なら銀歯、前歯ならプラスチックと定められています。見た目も綺麗で使い勝手のいい金歯やチタン製の義歯は場所を問わず、全て保険対象外です。

    ちなみに、金やチタンの歯になると、40万から60万くらいします。そう、こうなると、インプラントと大差がないか、むしろ高価なのです。ならば、アメリカ人と同じ。どうせ大金を出すのなら、根っこのない入れ歯より、根っこのあるインプラントの方が様々な面で価値ありという事になりそうです。

    なお、インプラントでも歯の治療にかわりはない訳で、治療費は全額医療費用です。健康保険の対象にはならなくても、医療費控除の対象にはなります。とは言え、リスクもあって、治療後は日々きちんと磨かなければ「インプラント周炎」という新たな歯周病を発症します。ですが、入れ歯だって、毎晩外してお手入れし、朝に再び装着するという手間がかかるのです。

    どちらも一長一短。やはり主治医とよくよく相談して選択する事が大切でしょう。そして、安心して相談出来る歯科医を選ぶのがポイントです。